制作うらばなしは書き出したら色々と出てくるのですが、今回は一人芝居公演で
はなく、ディナーショーでのお話を・・・

  歌手デビュー三十周年記念曲「紺屋高尾」を発売した時のディナーショーは特に印象的でした。
  三十周年と言う事もあってキングレコードの社長も見に来て下さり、普通のディナーショーとは違う真木柚布子のステージがどんなものかを感じて頂けんじゃないかと思っています。
 それは「歌と踊りとお芝居と・・・」がテーマの三行の添え書き「歌を語り 人生を演じ 儚さを舞う」と言う舞台に対する思いが、特別公演としての一人芝居だけではなく、このようなホテルのディナーショーでも十分に表現出来ていたかと・・・。
 
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  で・・・そんなディナーショーでの制作こぼれ話を一つ。
 通常真木さんの公演ではオープニングからその時の公演のテーマに合わせて特徴を出した演出をするのですが、同様にディナーショーでもオープニングには力を入れた演出をするようにしていました。
そしてこの時は、三十周年でもあり記念曲も制作された事から、何とか「紺屋高尾」をオープニングに使えないかと検討されました。
 そして、検討の結果 楽曲の舞台になっている遊郭の雰囲気を、ホテルのステージで出してしまおうと・・・とは言っても、細かい条件を考えると、遊郭のセットを準備する事も出来ず・・・。
そこで舞踊団正藤に協力してもらい、歌のバックで遊郭の座敷に上がるお客と芸者を演じてもらい、それに生の三味線を入れる事にしたんです。
 ですから、楽曲の途中では芸者が三味線に合わせて手拍子したり、芸者がお客の男性にお酌をするような演技が組み込まれているんです。
 それも、踊りが専門の舞踊団にお願いして・・・(笑) 
とは言っても舞踊団正藤には役者をやってるメンバーもいますから、さほど抵抗もなく・・・

ただ、そんな中で一番問題だったのが、「紺屋高尾」の歌中で真木さんの台詞のタイミングだけ、踊りをしているメンバーに瞬間的に時間が止まるようにストップをかけて動きを止めてもらう事。
 それも、ステージにいる真木さん以外の全員が一気に動きを止めてストップ!

 真木さんの歌を聞いて何も気にしないで見てしまうと何て事ないのですが、よくよく考えてみて下さい。曲に合わせて踊っている人が振り付けの流れを一瞬止めるんですから・・・日本舞踊で言えば邪道なんだろうと思います。

  ま~これも終わった後なのでこぼれ話しで気楽に書けますが、制作打ち合わせの段階で方向性を決めてからが大変でした。
何せ舞踊団正藤の家元に相談しなくてはいけないんです。
 そこで楽曲を準備し、歌詞を書き出して振り付けシートらしきものを作り(ま~この時点で家元には大変失礼な事なんですが)、そこに*動きを止める*と書き添えたんです。
 そして、その資料を持って真木さんと舞踊団正藤の家元を訪ねました。

 まずは

   「先生すみません! またディナーショーで宜しくお願いします!」

 家元 「あ~ いいわよ~ 今度は何やるの?」*毎回演出で無理を言ってるので(笑)

   「先生!実は今度は記念曲の「紺屋高尾」をオープニングで演出をかけてやろうと
     思うんですけど・・」

 家元 「あら・・・いいわね!花魁ものでしょ! 打ちかけも色々持ってるから、
     派手に出来るわね~」

   「はい! そうなんですよ! どうせなら正藤のメンバーに沢山出てもらって
     派手に・・・」

 家元 「いいわね~」

   「それで、今回は少し特殊にしたいんで、歌詞に振り付けのイメージを
     入れてきたんですけど見て頂けますか?」
      *この辺になると少々緊張感が増してきます。

 家元 「あ~そうなの・・・」*軽く目を通して

   「あの~すみません・・・ここの*動きを止める*の部分なんですけど・・・」と
     恐る恐る説明。

 家元 「あ~そうなの・・・面白いわね~ でも、ちゃんと出来るの?」

     と言った感じで話を進め・・・
     ・・・実は家元はいったいどうなるのか想像がついていないようでしたので
       (そりゃそうですよね! 踊りの途中でストップしてくれなんて
        振り付け依頼はないでしょうから・・・)
     なし崩し的に了承を得る事に成功。

ただ、それからと言うもの、演出の良く分かっている正藤のリーダーに話をして詳細を
説明。
そして、その他のメンバーにも事情を説明して納得してもらいお稽古に入る事に・・・
ただ、基本的な歌の部分の振り付けは家元にお願いしてるので、あとはこちらが動きを止める厄介な演出をしなければいけません。
 かと言って、さすがに家元が振り付をしてお稽古をしてるタイミングでは無謀な演出の振り付けをお願い出来る訳もなく、家元がいないタイミングを見計らって演出のかかった部分だけをメンバーとお稽古・・・。
 つまり、しばらくの間は家元が知らない状態でメンバーと演出のかかった振り付けを決めていったんです。 とは言えメンバーは若い世代ですから、普段やらない演出に文句ひとつ言う訳ではなく、逆に自分たちで動きを確認するくらいに協力的でした。

 ま~そんなこんなで何とかある程度形が出来たところで、家元にも見て頂いて最終の修正に・・・

はてさて家元になんと言われるか・・・ビクビクものではありましたが、一通り見て頂いた時の一言に膝が崩れ落ちそうになりました。

 家元 「あら面白わね~! でも、もっとちゃんと止まらないとおかしいわよ!」
      *何と結構乗り気で面白がってるじゃありませんか?

 ス  「先生・・・踊りの方にこんな事やらせて良かったですか? すみません・・・」

 家元 「いいのよ~ おもしろいじゃない! でも、やるならちゃんとキッチリ
     止まらないと変よね!」

    (笑)(笑)(笑)

   考えてみたら、家元もなかなか波乱万丈な人生を送ってこられた方でしたから、この程度の事でガタガタ言う人ではありませんでした!
それどころかまるで一番演出を楽しんでいるような・・・
 そんな家元だからこそ、これまで一緒にお仕事させて頂いたんだとあらためて痛感!

  と言う事で、普通だとありえない演出で御覧頂いたホテル椿山荘のオープニング「紺屋高尾」のこぼれ話でした。

 DVDをお持ちの方は是非オープニングの「紺屋高尾」の演出を改めてお楽しみください。

  ***機会があれば、家元の正藤勘扇先生の事を少し書く機会があればな~と思っていますのでお楽しみに!


                        ♪ かんりにん ♫